(霧立 灯:フリーランスライター)

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 SDGsは、今や国際社会で最も熱心に追求されているグローバルな指標だ。企業は競うようにサステイナブルであること、環境問題に取り組むことを経営方針に取り入れている。

 ところが、そんな世界の大きな潮流に逆行するような議論が日本では浮上しているという。小泉進次郎前環境大臣の政策であった「レジ袋有料化」を、大臣交代に伴って白紙に戻そうという動きである。

 ウェブニュースのコメント欄に並ぶのは、「レジ袋は全体のプラスチック問題からすれば大した量ではない」「レジ袋はゴミ袋として有効利用している」など、どれも政策の効果を疑問視する批判的な意見ばかり。政策内容の検証を試みるメディアは皆無であるばかりか、ただいたずらに批判を煽るような本質を欠いた記事ばかりが並んでいる。

 そこで、本稿では「レジ袋有料化」はプラスチックごみを減らす上で、本当に「無策」だったのかということを検証してみたい。

 反対論者の意見の筆頭として、「レジ袋はゴミ袋として再利用している。レジ袋を有料化したらゴミ袋を買わないといけないので、意味がない」というものがある。

 まず、そもそも「レジ袋有料化」はプラスチック問題を考える「きっかけ」として導入されたものなので、この批判が的外れな感は否めない。しかし、この政策自体でもプラスチックごみ削減の一定の効果は期待できることが分かっている。

「レジ袋はゴミ袋として再利用している論」の詭弁

 実際に、大阪市寝屋川市の家庭から出されたゴミ袋の中に含まれるレジ袋を分析した研究「ごみ中の実態に基づくレジ袋削減の可能性」では、現状に比べて55~57%のレジ袋が削減可能という試算がはじき出されている。

 レジ袋を単体でゴミ袋として使用しているケースももちろんあるが、小さなレジ袋などの場合、ゴミを入れた小さなレジ袋(小袋)を結局大きなゴミ袋(親袋)に入れていたり、小さなレジ袋(小袋)の中にまた別のレジ袋(孫袋)がいくつかまとめて入れられていたりと、ゴミ袋の重複した使い方が多く見られたからだ。また、空のレジ袋がゴミ袋に含まれている割合も3割近くあった。

 つまり、レジ袋が単体のゴミ袋として再利用されていないケースも実際には多いということだ。

 また、自治体指定のゴミ袋やゴミ袋に貼るシールの購入を義務づけている地域が年々増えていることに鑑みれば、レジ袋のゴミ袋としての利用価値は反比例して減っていくはずだ。

 1枚50円近くする自治体指定のゴミ袋ならば、誰だってぎゅうぎゅうにゴミを詰めてから出すだろうし、そもそもゴミを減らす努力をするようになる。一方、これが無料のレジ袋だったらスカスカのまま縛ってポイっと捨ててしまう人も多いのではないだろうか。

 次に、「日本国内のプラスチックごみのうち、レジ袋が占めるのはたったの2%。レジ袋を有料化し、マイバッグを促進しても焼け石に水だ」という批判がある。しかし、「レジ袋有料化」を推進した小泉前環境大臣も「2%」という数字は当然把握しているし、前述したように、レジ袋を有料化したところでプラスチック問題が解決するとはそもそも想定されていない。

日本でプラスチック包装が過剰になる理由

レジ袋有料化の真の目的は、レジ袋を有料化することではなく、そのレジ袋の有料化をきっかけに(レジ袋以外のものも含めて)使い捨てプラスチックに頼った国民のライフスタイル変革を促していくことである」と、総務省は「レジ袋の有料化について」のページで説明している。

 最新のデータによると、日本国内の廃プラ総排出量で最も多いのは、包装や容器、コンテナ類(46.8%)である(プラスチック循環利用協会資料)。レジ袋もこの中に含まれているが、食品トレーやお菓子の包装に使われるプラスチックが5割近くを占めるというわけだ。

 確かに日本のスーパーは、海外に比べるとプラスチックで包装されているものが非常に多い。野菜や果物などは、海外ではばら売りされているものが多いが、日本の場合はほとんどすべてがプラスチック包装されていることに驚く。

 小麦粉などの粉類も、海外では紙袋で売られていることが多いが、日本ではすべてプラスチック袋だ。煎餅やビスケットなども一枚一枚個別包装され、それがさらに大袋に入れられている。

 その理由は梅雨の時期にある程度納得した。日本は湿度や夏の気温が高いので、紙袋では品質を保てないという理由があるのだろう。

 このように至る所にプラスチックが使われているのだから、レジ袋の使用を止めたくらいでは脱プラスチックからは程遠く無駄である、と考える人がいるのも分からないではない。

 しかし、そう言ってレジ袋を平気で使い続けている人が、過剰プラ包装の商品購入を控えたり、魚は魚屋、米は米屋に保存容器持参で買いに行ったりするとは考えにくい。そんなことをするよりはレジ袋を使わないことの方が、はるかに簡単なのだから。

欧州では使い捨てレジ袋は既に使用禁止

 環境意識の高いヨーロッパでは、使い捨ての薄手のレジ袋は有料どころか、すでに過去の遺物となっている。何年も前から使用禁止になっており、スーパーには置かれていない。繰り返し使える厚手の袋は1枚あたり日本円にして30円~50円。日本のレジ袋のおよそ10倍だ。

 マイバッグ使用がすっかり定着しているので、スーパーは次々に改革を進めている。ベルギーのスーパーでは野菜や果物はプラスチック容器ではなく紙袋に入って売られている。

 筆者がイチゴを買った時、持って帰る間にコットンバッグの中でイチゴが転がりバッグにイチゴの赤いシミが付いてしまった経験がある。幸い、すぐに洗ったのでシミは簡単に落ちたが、こういった不便を受け入れる市民の環境意識の高さに対する驚きは今でも鮮明に心に残っている。

 最近スペインでは、2023年までに1.5kg以下の野菜・果物にプラスチック包装を使用することを禁止する法律が可決された。イングランドでも、使い捨てのプラスチックのスプーンやフォークが禁止され、プラスチック包装に税金が課される見通しだ。

 いずれも、一企業ではなく、行政レベルの政策であることに注目したい。

 廃棄プラスチック総量の約半分を占めるといわれているプラスチック包装にメスを入れるというのは、非常に効果の高い政策だ。レジ袋有料化を「肝いり政策」と呼んでいるどこかの国とはだいぶ違う。こういった画期的な廃プラ対策が国レベルで打ち出せるのはなぜだろう。

「レジ袋有料化」はプラ問題の端緒に過ぎない

 そこまでの道のりには、レジ袋の有料化から始まり、使い捨てレジ袋の使用禁止、スーパーごとのプラ容器廃止の取り組みなどがあったに違いない。もちろん一筋縄ではなかったはずだ。市民の反対もあっただろう。しかし、時間をかけて環境問題を共有し、改革を前進させてきたのだ。

 日本でレジ袋の有料化がようやく始まったのは昨年の話。ヨーロッパから見ると、5歩も6歩も遅れているというのに、ここで後戻りをするというのだろうか。

 レジ袋有料化の先には、取り組まなければならない巨大な環境問題が山積している。

 先進国は自国で処理しきれなくなったプラスチックごみを、「輸出」という形をとって発展途上国に押し付けている。その結果、「世界のゴミ箱」となった東南アジアの国々で、環境被害や健康被害が深刻な問題になっている。

 また、そのようなゴミ処理設備が整っていない途上国の埋め立て地から海洋に流れ込むプラスチックごみが引き起こす海洋汚染の問題も見逃せない。

レジ袋有料化」は、プラスチック問題のほんの端緒に過ぎない。環境問題の取り組みは、一人一人が多少の利便性を手放して、不便さを引き受ける姿勢が必要だ。

 SDGsとかなんとか大きいことを言う前に、レジ袋を使わない努力をすべきなのは明白ではないだろうか。

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新政権の発足に伴って、レジ袋有料化を白紙に戻そうという動きがある(写真:Natsuki Sakai/アフロ)