ゲーム好きの著名人・文化人にインタビューし、ゲーム遍歴や、ゲームから受けた影響などを聞く連載“あの人のゲームヒストリー”。今回話を聞いたのは、お笑いコンビ・スリムクラブの真栄田賢だ。

参考:【写真】スリムクラブ・真栄田賢撮り下ろしカット

 『M-1グランプリ』で準優勝を果たしたのは、2010年のこと。この時に披露した極めてスローテンポな漫才は大きな注目を集め、一躍売れっ子芸人の仲間入りを果たした。

 そんなスリムクラブのボケおよびネタ作りを務める真栄田だが、実は驚くほどのゲーム好きであることはあまり知られていない。

 ゲームは命――。そう公言する彼の、知られざるゲームとともに歩んできた半生と現在のプレイ実態、さらには、堀井雄二氏との意外な関係などを今回のインタビューで聞くことができた。

■小学生から現在まで35年間「ファミ通」を愛読

――まずは、真栄田さんのゲーム遍歴から教えてください。最初にゲームをプレイしたのはいつのことだったのでしょう?

真栄田:覚えているのは、ばあちゃんちに預けられてた5歳の時。なぜか家に置いてあったアーケードゲームの筐体で「ブロック崩し」をプレイしたのが、僕にとって最初のゲームとの出会いでした。

 その次に遊んだのが、ゲームウォッチニワトリが産んだ卵を、バスケットを持ったミッキーマウスがキャッチするゲームをよくやってました。小学生2年生の時には、当時発売されたばかりのファミコンを、親父が忘年会の景品で当てて持って帰ってきてくれた。そこからは夢のような時間の始まりです。「なんじゃこりゃ!」と。ブロック崩しゲームウォッチも面白かったんですけど、家のテレビでゲームをできるということがとにかく衝撃的でしたから。毎日、朝4時か5時に早起きして3時間ぐらいファミコンで遊んでから学校へ行く、ということをしていました。

――ファミコンでプレイしていたタイトルは?

真栄田:最初の頃は、オーソドックスに『ドンキーコング』『デビルワールド』『スパルタンX』『ピンボール』など、任天堂初期のタイトルをプレイしていました。そこから少し経つと、他のゲーム会社も面白そうなタイトルを次々と発売するようになります。中でもコナミは、子どもながらに「この会社は大丈夫」っていう安心感から贔屓にしていて、『グーニーズ』『グラディウス』『悪魔城ドラキュラ』などに熱中していましたね。その後、小学校4年生の時に夢中になったのが『ファミスタ』。放課後に友だちを家に呼び、自分たちで作ったトーナメント表で対戦して、盛り上がった記憶があります。

――中高生時代もゲームはしていましたか?

真栄田:バリバリやってました。僕が中学・高校生だった90年代前半は、PCエンジンメガドライブが発売されて、ゲームが一気に華やかになった時期。とにかく驚かされたのが、グラフィックの美しさです。当時、ファミコンにはないワンランク上のクオリティを求め、アーケードゲームの『R-TYPE』や『魔界村』をプレイするためによくゲームセンターへ通っていたのですが、PCエンジンメガドライブが登場したことによって常識が覆されました。だって、『R-TYPE』並みのゲームが家でできるんですから。『ファミ通』で、PCエンジンの『カトちゃんケンちゃん』を知った時なんかは、あまりの映像の綺麗さにびっくりしましたね。

――『ファミ通』を読まれていたんですね。

真栄田:はい。というか今も読んでいます。小学校6年の時から買い始めたから、かれこれ35年ぐらい読み続けていますね。今でも「ファミ通クロスレビュー」が大好きで。過去のクロスレビューをまとめた冊子もいくつか持っていて、ボロボロになった今もまだ読んでるんですけど、嫁から「あんた、これもう何回も読んだでしょ?点数も知ってるんでしょ?」ってよく笑われてます(笑)。

――「ファミ通クロスレビュー」って、レビューするファミ通編集部スタッフさんのコメントが印象的で、特に下の段のレビュアーさんの意見が辛辣で面白いですもんね。

真栄田:そうなんです! 当時TACO・Xさんっていう厳しい人が下の段にいたんですよ。その人がスーパーファミコンのレースゲーム『F-ZERO』にだけ10点をつけたんですけど、基本的には辛口のことばかり言うんです。そういったレビュアーさんのコメントが楽しくて、ついつい何度も読んでしまいます。

■浪人期間中は初代「バイオハザード」にドハマり

――それにしても、35年間「ファミ通」を購読し続けているというのはすごい…。

真栄田:僕の人生の中でゲームをやってない期間はないんですよ。それこそ、3年間の浪人期間中でさえ毎日プレイしていましたから。僕の浪人時代にちょうど初代プレステが発売されて、特にハマったのが『バイオハザード』。もう中毒なんじゃないかと思うほど異常にのめり込みました。クリアしただけじゃ足りなくて、タイムアタックナイフクリアもしましたし。3浪目の時にさすがにまずいとなりましたが、それでもゲームをやりたかった。そこで、勉強のやる気を出すためにまずはゲームをするようにしていました。

――ゲームをしたいからまずは勉強を頑張る……ではなくて?

真栄田:違います。逆です。ゲームで気持ちを高めてから勉強に臨むんです! 当時、縦スクロールシューティングゲーム『レイストーム』をプレイしていたんですけど、戦闘機から繰り出されるレーザー光線の軌道がめちゃくちゃかっこよかったんです。プレイする時は、あえてミュートにしてEvery Little Thingの「Future World」を掛けていました。「続くよ、フューチャーワールド♪」っていうテクノな音楽と『レイストーム』のグラフィックがすごくマッチしてて、この2つを組み合わせるとテンションが上がり、その後の勉強がはかどったんです。参考書も『レイストーム』のイメージで、問1にロックオンしてバコン! みたいな。問題を破壊する感覚で解いてましたね。

――その調子だと、大学入学後ももちろん、ゲームはしていましたよね?

真栄田:当たり前じゃないですか! ちょうどこの時期にプレステ2が発売されて一気に時代が変わりました。グラフィックの向上の幅が、プレステ2から3へ移行した時も相当なものだったけど、やっぱり、1から2への進化が一番すごかった。「リッジレーサー」のグラフィックなんて衝撃でしたもん。「木の影が車に映るんですかい!? 何なんですか!? ナムコさん」と。トンネルを抜けた時に差し込む日光のまぶしさと映像美に感動して、もう泣きましたもん! そしてカプコンから、もともと『バイオ』の新作として作っていたすごいゲームが出るということで買ったのが『デビルメイクライ』でした。『バイオ』をスピーディーにしたようなゲーム性で、とにかくめちゃくちゃかっこ良かった。ゲームの世界に入り込み過ぎて当時、主人公のダンテが着てそうな服を着て、髪もそれっぽく染めて、アクセサリーを付けて……ってスタイルを真似していましたね。

――大学卒業後はお笑いの道に進み、今に至るわけですが、現在ゲームはどれくらいプレイされていますか?

真栄田:1日5時間ぐらいやってるんじゃないですかね。今日も「ウイイレ」を10試合やってから家を出ました(笑)。僕がゲーマーとして自慢したいのが自宅のゲーム環境です。PS5は抽選に当たらず、まだ手に入れられてないんですけど、それ以外のすべてのハードを持ってるんですよ。

――それはすごいですね……! ちなみに、スリムクラブさんは『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)の常連ですが、毎日長時間ゲームをやられてて、ネタ作りなどいつやってるんですか?

真栄田:今日もさっきまで『クセスゴ』の打合せしてたんですよ。まぁ、僕が仕事を頑張れているのって、ひとえにゲームのおかげだとも思うんですよね。ゲームという喜びがあるからこそ、仕事も楽しいというか。ケンコバさんもちょっと前に会った時、同じようなことを言ってたんですよ。コバさんって今でも『ドラクエ10』をオンラインで吉本のチームでやっていて、この前「何で俺が番組を楽しくやれるか知ってるか?このあと家で『10』ができるからや。喜びがあんねん」みたいなことを言ってたんです。

堀井雄二とLINE友だちになった意外なきっかけ

――ゲームをやってきてよかったと思ったことは?

真栄田:根性が付いたと思います。特に『ドラクエ2』のロンダルキアの洞窟で。ネットはおろか攻略本さえあまりない時代で、あの鬼仕様。落とし穴はあるわ、強力なモンスターがどんどん出てくるわで、もう泣きながら何回も何回も挑戦しました。あまりにも落とし穴に落ちるもんだから、テレビ画面にマジックで印付けようとして、親父に止められましたね(笑)。そうやって苦しみながら、頑張ってクリアして出口の雪原に立った時には、「諦めずにやればクリアできる」って思えたんです。今思えば、小学5年生の時のあの体験が、初めての成功体験だったんじゃないかな。

――「ドラクエ」に関連した話でいうと、真栄田さんは5月27日に自身のTwitterで、ドラクエシリーズの生みの親・堀井雄二さんにドラクエ35周年のお祝いのLINEをしたと報告されていました。そもそも、堀井さんとはどのような経緯でLINE友だちに?

真栄田:僕、以前営業に呼んでもらった関係で、家庭用ゲームソフトなどを開発する株式会社トーセの代表取締役会長・齋藤茂さんと交流を持たせていただいているんです。その齋藤さんからお誘いいただいた食事会に、堀井雄二さんもいらっしゃったんですよ。僕からしたら憧れの人ですから「嘘だろ!?」ととにかく驚きました。緊張しながら「初めまして!」って挨拶したら、「初めましてじゃないですよ。エレベーターでしょっちゅう会ってます」って言うんです。実は堀井さん、僕と同じマンションに住んでたんですよ! で、3日後ぐらいに家のエレベーターに乗ったら、本当に堀井さんがいたんです。「うわ! メタルキング出た!」みたいに思いました(笑)。そんな経緯もあって仲良くさせていただいています。

――すごい偶然ですね。堀井さんと親交があるのであれば、先日の東京オリンピック開会式の入場曲がドラクエのBGMだった時は、さぞ感動されたんじゃないですか?

真栄田:いやもう、本当に感動して、速攻で堀井さんにLINEしましたよ! そしたら、キラーパンサー絵文字ギガンテスのスタンプ付きですぐ返信をいただきました(笑)。

――様々なゲームのお話が出ましたが、これまでプレイした中で、3本おすすめのゲームを上げるとしたら何になりますか?

真栄田:うわー! 悩むなぁー! 『バイオ』はまず確実に入ります。あとは『悪魔城ドラキュラ』。グラフィックはもちろんBGMも秀逸で、今でも新幹線で移動中の時は『ドラキュラ』の音楽を聴いてるぐらい好きです。最後の1本はやっぱり『ドラクエ2』ですかね。

――最後の質問です。真栄田さんにとってゲームとは何ですか?

真栄田:今パッと「命」って言葉が出てきました。生きるのに必要なもの。水・太陽・空気・ゲームみたいな。ゲームがなくても身体は生きられるかもしれません。でも、心が死ぬんです。小学生の最初の頃、集団行動が苦手で人間関係がうまくいかず寂しい想いをしましたが、家に帰ればゲームをする喜びがありました。プレイすれば心の充足が保てて、集中していたら何もかも忘れて気づいたらゲームの世界に入っている。バーチャル空間の中に自分の第2の生活の場があるような感覚でした。その気持ちは今も変わりません。今日も子どもの頃と何も相変わらず、家に帰ってゲームをするのが楽しみで仕方がないんです。

(取材・文=こじへい)

スリムクラブ・真栄田賢(撮影=池村隆司)