分岐点3:ソロアーティストデビュー

──ゆいかおりとしての活動、2012年の『あの夏で待ってる』『マギ』での声優としての気付きを経ての、最後の分岐点はなんでしょうか?

石原:
 3つめの分岐点は「ソロアーティストデビュー」です。

──おお! なるほど。そこを選ばれた理由を、詳しく聞かせてください。

石原:
 正直、ゆいかおりとしてのアーティスト活動が止まったあと、ソロデビューするとは全く思っていなかったんです。ソロデビューのオファーをいただいて、初めて事務所のみんなと「えーっ!? どうする!?」って話したぐらい、自分の中にソロでやるイメージがなかったんです。
 それほど自分のアーティスト活動には、小倉唯ちゃんの存在が大きかったんです。歌って踊ることも、がんばれたのはふたりだったから。

──アーティスト活動=ゆいかおり、だったんですね。

石原: 
それに、アーティスト活動をすると、言葉にして伝える場面がどうしてもありますよね?

──ライブのMCやインタビューといった局面ではついて回りますよね。

石原:
 私は自分の気持ちを言葉にするのが苦手だから、歌や踊りはまだひとりでもできても、それは無理かも……って思いました。
 でも、事務所のスタッフさんや、まわりにいる方々に「夏織ちゃんの歌っている姿はすごく良いし、好きだよ」と言ってくださる方が多かったんです。「一度くらい、だまされた気持ちになってやってみようかな」って(笑)。そんなスタートでした。

──自分では向いていると思えなくても、まわりがそこまでいうなら。

石原:
 でも「やるからにはちゃんとやろう!」と決めたんです。ソロデビュー曲から方向性もこだわって決めよう。打ち合わせにも全部参加しよう、と。それでやってみたら「曲作りってこんなに面白いんだ!」 という発見がありました。
 さらに、1stシングル『Blooming Flower』が出た後のリリイベで、私のことを待ってくれていたファンのみなさんが「この曲のおかげで就活をがんばれました!」とか、「受験を乗り切れました!」とか、あたたかな言葉をかけてくれて「私、ソロデビューして良かったんだ!」と自信を持てたんです。

『Blooming Flower 通常盤』。画像はAmazon.co.jpより。

──ゆいかおり時代もですけど、ファンの方と間近に接することが石原さんにとって大きな財産になっているんですね。 
石原:
 そうなんです! ファンのみなさんにこういう気持ちを伝えると、「自分なんか、そんな大したことは……」っていつも謙遜してくれるんですけれど、本当にメチャクチャ助けられています!

──ファン冥利に尽きるお言葉だと思います…! ソロ活動ももう長くなって来ましたが、もう以前のように、ご自分の意見を強く出して活動をやることへの苦手意識はありませんか? 

石原:
 うーん……やっぱり自分から何かを発信するのは、今でも勇気がいりますね。でも、そこで引っ込めてしまうのではなく、ちゃんと勇気を出して「私はこう思います!」と言えるようになってきました。自分もですし、スタッフさんもですけど、関わってくれる「みんな」がちゃんと満足して、納得しているものを形にして世の中に送り出したいんです。 

──それはどうしてですか?

石原:
 届ける側が悩んでいる、納得していないものを届けたら、ファンのみなさんもきっと納得できないと思うからです。納得できないものがない状態で活動するのが私の目標なんです。実際、これまでは支えてくれるスタッフさんたちのおかげもあって、ちゃんと悩みを解消した上で、自分の作品を送り出せているのかなと思っています。

──ただ、はっきり意見をいうのは、本当に勇気が要りますよね。 

石原:
 そうですね。「自分のひとことで決まりかけていた話が振り出しに戻っちゃうかもしれない」みたいな恐怖はあります。人間関係にも、亀裂が生じてしまうかもしれません。でも、それでも、自分の望みが叶うかわからないけど、言うだけは言ってみるようにしています。
 やっぱり、言わなくて後悔することはあっても、言って後悔することはないと思うんです。少なくとも、これまでの私はそうでした。 

──濃密な人生を歩まれて、その中で味わったひとつ一つの経験を、堅実に自分の成長の糧として積み重ねていらっしゃった印象を受けました。少し変な質問だったら恐縮ですが、10代のころに、「10年くらい経ったとき、こんな人になっていたい」みたいな明確なビジョンは、きっとなかったですよね?

石原:
 全然なかったです!何も先のことを考えず、ただただ「目の前のことを一生懸命やろう!」というタイプだったんですよ。
 将来のビジョンについては、まわりのスタッフのみなさんが先を見据えて、上手く地馴らしをしてくれていたんだなって、今になってみると思います。 

憧れの声優は花澤香菜さんと坂本真綾さん

──3つの分岐点を経た石原さんの「現在」も気になります。お仕事に限らず、生きる上で最も大切にしていることはなんですか?

石原:
 そうですね……繰り返してしまいますけど、ここまでやってこれたのもまわりのスタッフのみなさんのおかげだと強く感じているんです。いままで付き合ってくださったスタッフさんはもちろん、これから初めて会うスタッフさんたちにも感謝の心を忘れないようにすること。これをいちばん大切にしています。

──ちなみに、昔は「何も先のことを考えていない」タイプだったという石原さんですが、今は「未来」についてのお考えはありますか? たとえば、声優として目標とされているような憧れの先輩がいるとか。

石原:
 名前が思い浮かぶ素敵な先輩はたくさんいるんですけど……あえて「憧れ」としてお名前を出すなら、ひとりは花澤香菜さん。声優としてはもちろん、人としても好きなんです。優しくて、朗らかで、仕事に対して真っ直ぐ向き合っている感じがとても素敵です。
 もうおひとりは坂本真綾さん。声優としても歌手としてもずっとご活躍されていて、しかも、ずっと一貫して独自の世界観を持たれていますよね。ご本人からもオーラを感じるんです。あんな素敵な女性になれたらいいと思っています。

「ファンの方も一緒に成長してくれている」

──最後に、なにか今後の目標があれば教えてください。 

石原:
 1日5分でもいいから、自分のためになることをする。すぐに仕事に繋がることじゃなくても、自分のために何かをできるようにするのが目標です。
 最近、日記を毎日つけているんです。文章を書くことに苦手意識があるので、短くてもいいから、とにかく日を空けずに書き続けて書くことへの抵抗をなくしたい。それでもし苦手意識がなくなったら、作詞とかもしてみたいなと思っています。
 
──おお!

石原:
 いまはとにかく書き続けて、作詞の前にブログの更新とかも、もっと濃密な文章が書けるようになれたらいいなと思っています。

──作詞もされるようになったら、ますますソロ活動に石原さんご自身の気持ちが強く反映されるようになりそうですね。

石原:
 歌はこれまでのような曲も歌い続けつつ、年齢を重ねたなりの歌をうたってみたいです。活動が長くなるにつれてファンの方も一緒に成長してくれているので、いままでは元気な曲が多かったんですが、将来的にはバラードとか、もっと歌い上げるタイプの曲を歌えるようになりたいです。そのための準備は、ちょっとずつ進めています。

 あと、最近はツアーがなかなかできない状況ですけど、また以前のようにやれるようになったら小規模な会場をたくさんまわりたいです。ゆいかおりで活動し始めたときのように、改めて小さな会場からスタートして、少しずつ規模を大きくしていくような形でコロナ禍以降のライブ活動を始めてみたいです。 

声優 石原夏織 インタビュー 人生における3つの分岐点



──「ファンの方も一緒に成長してくれている」って、素敵な言葉ですね。

石原:
 6月にFCイベントを初めてやったんですよ。そのときMCで「ゆいかおりのデビュー前、事務所のライブに出ていたころから通ってくれていた人いますか?」と聞いてみたんです。そうしたら、7人くらい手を挙げてくれて。
 ゆいかおりの最初のリリイベに来てくださったのって、15人くらいだったんですよ。で、「リリイベにも来てましたか?」って聞いたら、同じ7人が手を挙げてくれたんんです。あのとき事務所ライブに来てくれていた中の、半分くらいの人が10年近くずっと応援してくれていたんです。びっくりしちゃいました。 

──それはめちゃくちゃすごい話です……!

石原:
 家族でも、そこまで熱心に応援してくれないですよね(笑)。それだけ支えてくれるファンのみなさんのありがたみは、デビューしたときからずっと変わらず今も感じ続けています。


 「ゆいかおり」について、石原夏織さん本人からここまで詳細に語られることに、驚いた読者も多いのではないだろうか。
 声優として経験を積み演技に自信ができたこと、そしてソロデビューによりアーティスト活動をより楽しめるようになったことで、改めて「ゆいかおり」という経験がご自身におおきなプラスの影響を与えてくれたことを実感したのだと思う。また、ユニットからソロにかけての長い活動のなかで、一貫して応援してくれるファンの存在をいかに大切にしているか明らかになったインタビューだった。
 ファンに感謝し、スタッフに感謝し、ユニットの相方や声優の先輩に感謝する。その謙虚さをいつまでも失わない石原夏織さんは、これからどこまでも声優として、人として進化していくはずだ。 

石原夏織さん直筆サインをプレゼント!

 インタビュー後、石原夏織さんに直筆サインを書いていただきました。今回はこの直筆サインを1名様にプレゼントします!
 プレゼント企画の参加方法はニコニコニュースTwitterアカウント(@nico_nico_news)をフォロー&該当ツイートをRT。ご応募をお待ちしています。

石原夏織さん撮りおろしフォトギャラリー

 インタビュー後、石原夏織さんのフォト撮影を行いました。
 記事とあわせて、ぜひお楽しみください。

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