__ある日突然異世界に転生し、その世界で生きていく___。そんな経験をしたことはあるでしょうか?

 多くの方にはそういった特殊すぎる経験はないかと思いますが、それに近いであろう感覚を味あわせてくれるゲームが、今回ご紹介する『7 Days to End with You』です。

『7 Days to End with You』レビュー:急に異世界に送り込まれたような感覚を味わえるノベルゲーム_001

 本作を端的に説明するならば、“言語を推理するゲーム”。これは、これまでの推理ゲームにはないような画期的な作品となっており、そのことを証明するかのように、本作は、世界最大級のインディゲームの祭典INDIE Live Expo Awards 2022』において、新たなゲームプレイの手法を発明したタイトルに送られる “ルールズ・オブ・プレイ賞” を受賞しています。

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逆転裁判

 そもそも、推理ゲームは、作中で発生する何かしらの事件を捜査し、真相を推理して解決へと導くという内容であり、そのシステムの分かりやすさとゲームへの落とし込みやすさから、ポートピア連続殺人事件ファミコン探偵倶楽部シリーズ、探偵 神宮寺三郎シリーズなど、家庭用ゲーム黎明期であるファミリーコンピュータの時代から、名作や人気作が数多く存在する歴史の深いジャンル。
 ファミコン以降も、かまいたちの夜、『逆転裁判』シリーズ、ダンガンロンパシリーズといった人気作があり、ホラーの風味を混ぜ合わせたパラノマサイト FILE23 本所七不思議が好評を博したことも、記憶に新しいところです。

 しかしながら、そのシステムの分かりやすさ故に、推理ゲームはゲームジャンルとしては初期から完成されており、あっと驚くようなトリックを用いた作品こそあれ、これまでにないようなプレイ感を感じられる画期的なゲームが生まれにくいジャンルであるという側面もあります。

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『Unheard ー罪の代弁ー』

 もちろん、近年においてもそのような名作が全く存在しないというわけではなく、事件発生前後の現場周辺音声のみを頼りに、事件の全容を推理する『Unheard ー罪の代弁ー』や、

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Return of the Obra Dinn

 遺体に反応し、その遺体の死の直前の状況を見ることができる奇妙な懐中時計を使い、謎のを死や失踪を遂げたオブラ・ディン号の乗組員達の身元と死因を推理し特定し続ける『Return of the Obra Dinn』といった作品が、その具体例として挙げられます。

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7 Days to End with You

 これらのような作品では、“何をどうやって推理するのか” という、推理ゲームの根幹とも言える要素にメスが入っていることが多く、今回の『7 Days to End with You』も、そういった作品のうちの一つ。

 そんな本作でプレイヤーが推理するのは、言語。誰も見たことのない未知の言語で綴られる物語を紐解いていくという内容のゲームは、これまでにないような画期的なものであり、そのシステムの新しさが評価されていることは、先ほどもお話した通りです。

 ……となりますと、次に重要になってくるのが、“未知の言語をどうやって推理するのか” 。そこで今回は、言語を読み解いていく本作の魅力について、その手法も含めてお話ししていければと思います。

文/DuckHead

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言葉の意味が分からないビジュアルノベルゲーム

 さて、本作の魅力についてお話しさせていただきます前に、まずは簡単に、本作のあらすじについて触れておきたいと思います。

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 プレイヤーは、物語の主人公……ではなく、観測者。主人公たちの織りなす物語を見守る存在です。観測者と言うと、少し堅苦しい感じがするかもしれませんが、観測する物語そのものは物語の主人公の視点で進行し、プレイヤーはその主人公を操作して物語に触れていくため、プレイヤーがやる事自体は他のゲームとあまり変わりません。

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 そして、プレイヤーの観測する物語の始まりは、主人公が見知らぬ部屋で目を覚ますところから。目の前には赤いロングヘアーが特徴的な、“赤髪さん” がいましたが、主人公にはその人が何者なのか一切分かりません。
 ……ちなみに、この赤髪さんというのは、私が今回こちらの記事を書かせていただくにあたって便宜上つけた呼称ですので、適当に聞き流しておいてください。

 それはともかく、主人公が目を覚ましたことに気が付いた赤髪さんは、主人公に対して話しかけてきますが……

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7 Days to End with You

 主人公には、その人が操るそれらの言葉が全く理解できません。

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 それどころか、主人公は完全なる記憶喪失状態であり、自分が何者なのかということすら何一つ思い出せない状態。

 何かしらの理由で事故に巻き込まれ、異国の地で保護されたのか、元々この場所に住んでいたけれど、記憶喪失によって話していた言語を忘れてしまったのか、はたまた未知の生命体の手によって、どこか知らない星へと連れ去られてしまったのか……主人公が現状を知る手段は何一つとしてありません。

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 そう、このゲームの目的は、赤髪さんが操る謎の言語の意味を推理して、物語の全容を掴むこと。つまり本作は、物語を紡いでいる言葉たちの意味が全く分からないビジュアルノベルゲームなのです。

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 そして、『7 Days to End with You』というタイトルからも分かりますように、本作で紡がれるのは 7 Days、7日間の短くて長い物語。プレイヤーはこの7日間を、赤髪さんとコミュニケーションを取りながら繰り返し繰り返し観測することで単語を推測していき、物語を様々な結末へと導いていくのです。

未知の言語を読み解くということ

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 さて、未知の言語で作り上げられている7日間の物語は、正直なところ、そこまで長いものではありません。

 しかし、そんな物語が内包しているのは、宇宙。プレイヤーはゲームプレイを始めた時、物語を組み立てている言語の単語の意味はもちろんのこと、文法すら分からないという状態ですから、物語は無限の広がりを持って我々の目の前に立ち現れます。

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 では、そんな可能性の獣とも言うべき不可思議な言語を目の前に、どのようにして単語の意味を推測していけばいいのかと言いますと、プレイヤーの頼りとなるのは、作中に登場する単語を1つにまとめた単語帳。

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 この単語帳では、自分が感じたまま、思うがままに、それぞれの単語の意味を自由に入力することができるようになっています。

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 そして、何かしらの言葉を入力した単語がその後物語で再登場すると、入力した言葉が単語の上にルビのように表示されるようになります。このようにして、プレイヤーはそれぞれの単語の意味を推理しつつ、物語の全容を解明していくのです。

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 また、この単語帳を使って単語を選択すると回想モードに入り、その語句が使われていたシチュエーションを一気に見返すことができます。これによって、単語が使用されている場面の共通点を探し出すというのが、単語の意味を推理する手法の1つ。

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 しかし、この方法で回想することが出来るのは、会話の中で登場し、主人公の耳に音声として入った単語だけ。本の表紙や新聞など、主人公が目にしただけの単語を回想したい場合は、改めてその単語が記載されている場所に自ら足を運んで調べにいく必要があります。

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単語への色付け

 更に、単語帳を使えば、単語に対して個別に色のイメージをつけることもできます。

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 このようにして単語帳で色を付けた単語は、本文中に登場した際、単語の下の空欄にその色が表示されるように。この機能には、特に使い方の指定がないため、単語の推理に自由に活用することができます。

 例えば、キーワードっぽい単語に対しては赤色、やや重要そうな単語には青色、推測した意味が正しいかが疑わしい単語には灰色……といった具合に色付けをしていって、その単語が出た時に注意が向くようにすることができるといった具合。これは完全に私の個人的なやり方なので、上手に機能を使えているのかどうかは怪しいところなのですが。

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 その他の単語推理の分かりやすい方法は、家の中にある家具などを調べて、未知の言語ではそれを何と言い表すのか教えてもらうというやり方。

 「よっしゃ!これならすぐに単語の意味が分かるぞ!」と期待を抱いてしまいがちなところですが、物事はそう簡単には運んでくれず、赤髪さんが単語1つだけの明確な答えを返してくれることは稀。大抵2つ以上の単語が返ってきます。そのため、初見ではどの単語が何を意味しているのか判別不能な事が多く、やはり、先ほどの回想を駆使して単語の意味を推測することが本作のベースとなってきます。

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 また、これ以外にも、家で何かしらの作業をやってみることが単語の推理方法として挙げられます。作業の手順は都度都度教えてもらえるので、頼まれた作業を間違いなく遂行できるかどうかをみていくことで、自分の推理した翻訳がどの程度正しいものであるのかを再確認することが可能です。

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 そして、物語を把握する上で非常に重要になってくるのが、主人公が見る夢。
 1日の終わりにベッドの上で抽象的なぼんやりとした夢を見ている主人公は、その夢から感じるイメージを語ってくれます。

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 その語りが終わると、この夢のタイトルを表す単語が画面中央に表示され、その周囲にはタイトル候補となる日本語の単語たちがズラリと並びます。これらのタイトル候補の中から、その夢のタイトルとしてふさわしいものを選ぶことができれば、中央に表示された単語の意味を知ることができるというわけです。

 この夢に出てくるのは、本作において数少ない、すぐに意味を確定させることができる貴重な単語。物語においてキーワードとなるような重要な単語が多く登場するので、聞き流しはせず、しっかりと当てにいきましょう。

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 プレイヤーは単語帳を片手に、ここまでに挙げたような方法を使って翻訳情報を蓄積させていき、主人公たちの7日間を繰り返し体験することで、物語の全容解明に挑みます。

 しかしながら、ここまでで紹介しました単語の推測方法は、全体のほんの一部に過ぎません。当然、どういった思考整理方法を選択するのかはプレイヤーそれぞれに委ねられていますので、自分に合ったやりやすい手法を見つけて、言語攻略にじっくりと取り組んでいくのがいいでしょう。
 もしかすると、この未知の言語に向き合い続けることで、これまでの推測方法が全て覆るような発見が……なんてこともあるかもしれません。

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 さて、本作を遊んでいる上で何よりも楽しい瞬間は、何と言っても単語の意味が分かった時。まぁ、これがゲームの核となる部分ですから、楽しいのも当然といえば当然なのですが、頭を悩みに悩ませた後に単語の意味が分かった時の快感は何物にも代えがたいもの。
 本作のプレイによって得られる快感、脳汁が溢れて止まらない感覚は、まさに推理小説や推理ゲームでしか得られないそれであり、この快感が単語の数だけ押し寄せる可能性があるわけですから、本作が秘めているポテンシャルは半端ではありません。時にはいくら頭をひねらせても分からなかった単語の意味が、全然違うことをしている最中に不意に天啓かのように降り注ぐこともあり、プレイ中は汁だくで甘美な日々を送らせていただきました。

 また、これは推理ゲーム好きとしての個人的な意見になりますが、推理ゲームというものは、難易度設定が非常に難しいように感じます。
 なぜかと言いますと、難易度が低すぎてスッと推理できてしまうと、作業ゲー色が強くなって脳汁が枯渇してしまいますし、難易度が高すぎて全く歯が立たないと、ゲームが進まなくなって脳汁を噴出させるに至らなくなってしまうからです。もちろん、作り手が用意しているトリックが突飛すぎたり、論理が破綻したりしているのはもってのほか。かなーりワガママな話ですが、推理脳汁中毒者というのは、面倒くさい厄介な生き物なのです。

 そして、肝心の本作の推理難易度ですが、簡単に意味を推測できる単語もあれば、かなり頭を悩ませるような単語もあり、総合的にみて、とてもいい塩梅だったように思います。これは、用意された単語の数だけ推理タイミングがある本作ならではのメリットが活かされた形とも言えるでしょう。

 単語帳を片手に単語の翻訳を進めていけば、気分はまさに杉田玄白。彼らが取り組んだ、オランダ語で書かれた人体解剖書『ターヘル・アナトミア』の翻訳には4年もの歳月がかかったそうですが、そこまでの難しさではないにせよ、当時の翻訳作業の雰囲気を味わうことはできるのではないでしょうか。

 ……いや、本作は急に異世界へと送り込まれたかのような感覚を味わえるゲーム。いろいろな意味で、ジョン万次郎のような気分と言った方が近いかもしれません。

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 加えて、本作の魅力の1つとなるのが、周回を重ねるごとに蓄積されてゆく翻訳情報によって、物語の解像度が高くなっていく過程をリアルタイムで楽しめること。徐々に明らかになっていく物語やキーワードの配置、それらを確定させていくためのポイントも絶妙で、ストーリーテリングとしての上手さを端々で感じることができます。

 時には単語の意味が全く分からずに停滞してしまうこともあるかもしれませんが、たった一つの単語の解釈が変わるだけで、物語全体の解釈が大きく変わるという経験は、本作をプレイしなければ中々味わえるものではありません。

 ずっと同じ物語を繰り返し見続けているからこそ、物語の見え方が変わったときのインパクトは絶大。脳内を満たしていく汁の量も、それはもう物凄いことになるのです。