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ブラックな職場に注意!(写真:PIXTA)

前例のない物価高。家計のタシにするために、パートに出ようという人も少なくないだろう。しかし、とんでもない“ブラックパート職場”だったなんてことも……。

実際に、労働基準監督署などに寄せられた令和4年度の“総合労働相談件数”は、124万8千368件と15年連続で増加している。

実際に、どんなトラブルの事例があるのか――。

ジャパンユニオンの相談員、須田光照さんに、多く寄せられる相談事例と、対処法を聞いた。

「多いのは、賃金の未払い問題。とくに“サービス前業”といって、制服に着替える時間や朝礼時間などが時給に含まれないケースです。準備時間も業務の一環だということをまず知ってほしいと思います」(須田さん、以下同)

面接で提示された時給が支払われない、というケースは多い。

「労働基準法では、『労働条件は書面で明示しなければならない』と定められています。しかし、口頭ですませている企業もあるので、書面で労働契約書を結んでもらいましょう。あとから『言った、言わない』というトラブルを防げます」

突然、雇い止めに遭うことも。

「パートや派遣のように、1年ごとに契約更新しているような有期雇用であっても、何年も雇用されていた場合、突然、雇い止めすることは労働契約法に反します。

『契約期間が終わったから仕方ない』と諦める必要はありません」

このほか、パワハラやセクハラも職場環境配慮義務の怠慢だし、辞めさせてもらえないことも民法によって禁じられている。

「まずは、働く側が、こうしたケースは法律に反するという知識を持つこと。不当な目に遭った場合は、泣き寝入りせずに地域の労働基準監督署やユニオンなどに相談を」

8つの事例を紹介しよう。

【1】強制サービス“前業”

スーパーのレジ係りをしているAさんは、制服に着替える時間や、朝礼の時間など、仕事を始める前のさまざまな準備時間をサービス“前業”させられていた。本来、こうした前業は賃金が発生するはずだが……。

<対処法>

労働基準法24条の違反にあたる。労働基準監督署やユニオンなどに相談することで、未払いの“前業代”を支払ってもらえることも。

【2】しれっと賃金未払い

パートでビル清掃をしているBさんは、面接時に〈週4回シフトに入れば時給◎円です〉と口頭で約束していた。しかし、約束の日数シフトに入っても、月給にして2〜3万円低い賃金しか支給されなかった。

<対処法>

企業は、労働基準法15条によって雇用契約を結ぶ際には、労働条件を書面で明示しなければならないと定められている。必ず書面での締結を求め、言った言わないトラブルを避けよう。

【3】自腹レジ補填

飲食店のパートでレジ業務を担当していたCさんは、レジの収支が合わないときは自腹で補填せられていた。

<対処法>

「自分が悪いのだから仕方ない」と泣き寝入りする人が多いが、企業側が従業員に弁償させたり罰金をとるなどした場合、労働基準法16条の違反に。労働基準監督署や、ユニオンなどに相談を。

【4】「ダンナが稼いでるんだろ」でクビ

10年以上事務のパートをしていたDさん。毎年、契約更新していたが、ある年突然、上司からは「夫に養われているんだから生活には困らないだろう」と言われ雇止めに。

<対処法>

Dさんのような有期労働契約であっても、一定期間雇用を継続していた場合、突然“雇い止め”することは、労働契約法19条に違反する。雇用継続の可能性があるので、労働基準監督署かユニオンなどに相談を。

【5】上司の飲みを断ってクビ

貿易会社のパートとして事務職に就いていたEさん。上司から、「ふたりで飲みに行こう」としつこく誘われ、断ったところ冷たくされるようになり、雇い止めにあってしまった。

<対処法>

雇い止め自体が労働契約法19条違反であり、その原因がセクハラという二重に不当な行為。雇用主には職場環境配慮義務があるので、セクハラ・パワハラを受けた場合は、メールやLINEの保存、会話を録音しておく等の証拠保持を行い、それを持って社内の相談窓口や、信頼できる上司、人事部などに相談を。

【6】パワハラで鬱

パートで病院の医療事務をすることになったFさん。小さなミスでも大声で怒鳴られたり、嫌がらせされたりといったパワハラを受けた結果、鬱に。

<対処法>

5のケースと同様で、雇用主には職場環境配慮義務があるので、信頼できる上司や相談窓口に相談を。

【7】永遠に辞められない

エステサロンの美容部員としてパート勤務していたGさん。上司に「辞めたい」と打ち明けたところ却下され、辞めるなら入社時に受けた研修費用を支払うよう要求された。

<対処法>

民法627条では「退職の自由」が定められている。雇用期間の定めのないパート勤務の場合、退職の2週間前に申し出れば辞職できる。また、体調不良などやむを得ない場合は、いつでも辞職が可能。会社に退職願を提出し、そのあと出社しなければ問題はない。

【8】“パートさん”呼びで差別

販売員としてパート勤務していたHさん。正社員と業務は同じなのに、“パートさん”と呼ばれて本名すら呼んでもらえず、入館証を首から下げるストラップの色をはじめ、食堂で食事するエリアまで正社員とパートで分けられるなど、差別的な扱いを受けた。有給休暇も取得させてもらえなかった。

<対処法>

有期雇用労働法によって、正社員と非正規労働者との不当な差別が禁じられている。ユニオンなどに相談を。

そのほか、求人票や面接の段階で、ブラックパートを見分けるコツもある。社会保険労務士の須田美貴さんに解説してもらった。

【1】求人票の時給の幅が1千〜2千円など広すぎる

「期待して入っても、最低ラインの時給しかもらえないケースが多いです。面接のときに、しっかり
賃金を確認しましょう」(須田美貴さん、以下同)

【2】ボーナス・退職金支給などおいしいことが書かれている

実際には、勤続5年以上しか該当しないなど、落とし穴があることも。

【3】試用期間がやたらと長い

「通常、試用期間の平均は3カ月程度ですが、なかには1年と長く設定している企業があり、その場合は『試用期間は解雇しやすい』と誤解している可能性が」

【4】サイトに社長のサクセスストーリーが長々掲載されている

社長の武勇伝が長く掲載されている場合、社員にも“スポ根”を求めるブラックの傾向が。

【5】「すぐ来てください」と言う

面接で「明日から来てください」と言われた場合、人が定着しておらず常に人員不足の可能性が。

こうした点を参考に、仕事選びをしよう。