2012年辰年……竜(ドラゴンの年。

当時、日本国内ではまだ馴染みの薄かったオープンワールドに挑んだカプコンの完全新作アクションRPG、ドラゴンズドグマPlayStation 3Xbox 360)が発売された。

そして、それから12年が経過した2024年。
ドラゴンズドグマ』の正統なる続編ドラゴンズドグマ 2PlayStation 5Xbox Series X|S、PC)が再びの辰年、ドラゴンの年を迎えたことに呼応するかのごとく、3月22日に発売という名の再臨を迎える。

ドラゴンズドグマ』の最たる特徴と言えば、「ポーン」と称されたAI操作によるパートナーキャラクターたちで4人パーティを編成して冒険を繰り広げる、シングルプレイでありながらマルチプレイを遊んでいるかのような体験だろう。

また、「ポーン」はオンラインを介して他のプレイヤーとの貸し借りも可能。借りたポーンで戦力を強化したり、また貸し出したポーンが何かお土産を持って帰ってくることを待つといった、「ゆるいコミュニケーション」が楽しめるシステム周りも魅力のひとつとなっていた。

そして今回の『ドラゴンズドグマ 2』……本作は、前作から12年ぶりの続編ということもあり、新展開を待ち望んだファンからは特に熱い視線が注がれている。

同時に前作から相当な期間が空いているからこそ、「前作のポーンを筆頭とするシステムや体験はそのままなのか?」「当時は珍しかったオープンワールドのフィールドはどう進化しているのか?」など、前作プレイヤーの視点で気になってしまうことも多々あると思われる。

電ファミニコゲーマー編集部はこのたび、前作に引き続きディレクターを務められているカプコン伊津野英昭氏、プロデューサーの平林良章氏への直撃インタビューを敢行。前作から変わったことからより深まったこと、そして『ドラゴンズドグマ』というゲームが誕生するまでの経緯まで、幅広くお話などをうかがった。

『ドラゴンズドグマ 2』インタビュー:「ポーン」の開発エピソードを聞いてきた_001
写真左から伊津野英昭氏、平林良章氏

聞き手/豊田恵吾シェループ
写真/佐々木秀二

『ドラゴンズドグマ 2』公式サイトはこちらPlayStation Store『ドラゴンズドグマ 2』ストアページはこちらMicrosoft Store『ドラゴンズドグマ 2』ストアページはこちらSteam『ドラゴンズドグマ 2』ストアページはこちら

コンセプトは「死ぬかもしれない」という冒険感。『ドラゴンズドグマ』らしさあふれる体験は今作でも健在

──本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。今回の『ドラゴンズドグマ 2』ですが、前作以上に盛り上がっている印象を受けました。まず、今作は前作から10年以上ぶりの続編ということになりますが、発表してからの反響や手応えというものはどのように感じておられますか?

伊津野英昭氏(以下、伊津野氏):
僕としましては「海外からの期待がすごく高い」というのが体感としてあり、これは前作とひと味違うなと。前作は「国産タイトル初のオープンワールド」という触れ込みがあって、日本ではコアなゲーマーの方々を中心に盛り上がってくださったのですけど、海外では発売がちょっと遅かったんですね。今回は前作から時間が経っていることや発売日が日本と同じなこともあり、すごく盛り上がってくれていまして……非常に心強いと感じています。

平林良章氏(以下、平林氏):
プロデューサー側の手応えとしても伊津野さんと同じです。ひとつ足しますと、SNS上では「『ドラゴンズドグマ』らしさって残っている?」という、続編に対する期待とほんの少しの不安を含んだコメントが見られたんですね。これはもう本当に「ご安心ください!」と、前作を楽しまれた方々へお伝えしたいです。

昨今は「新しいゲームシステムを入れました」「手触り感を変えています」というような、変化のポイントが売り文句になりやすいですよね。
ただ、前作の発売から10年以上も空いてしまっていますと、前作を発売当時に遊ばれたユーザーさんから、「あの時に楽しかった『ドラゴンズドグマ』としての体験は残っているの?」「僕らは今の世代の最新ゲームのクオリティになった『ドラゴンズドグマ』をプレイしたいんだ!」という声があがってくるのも当然だと思うんです。

僕らとしましても「『ドラゴンズドグマ』らしい体験をいま、現代の技術を使って最高の形でできるようにしたい」との思いをずっとブレずに持ち続けているんですね。なので、本当に初代『ドラゴンズドグマ』を楽しんでくださった皆さんには「安心してください」とまずははっきりお伝えしておきたいです。

課題を挙げるとすれば、いまは今回の続編で初めて『ドラゴンズドグマ』を知られたお客さんの「『ドラゴンズドグマ』って何?」「どこが楽しかったの?」といった声に応えなくてはな、と考えている状況です。うまく言語化して『ドラゴンズドグマ』の魅力をお伝えしたいですね。

『ドラゴンズドグマ 2』インタビュー:「ポーン」の開発エピソードを聞いてきた_002
(画像は『ドラゴンズドグマ 2』公式サイトより)

──今回の『ドラゴンズドグマ 2』も、前作と変わらない『ドラゴンズドグマ』らしい体験が楽しめるゲームになっている。それが最も大きな声でお伝えしたいセールスポイントなのですね。

津野氏
本当に1作目から、ゲームの核となるコンセプトはずっとキープされているんですよ。『ドラゴンズドグマ』としての「やりたいこと」はほとんど変わっていません。では、そのコンセプトとは何かと言いますと……「冒険感」なんですね。

「冒険感」はすごく抽象的な言葉なので、開発チームのメンバーに説明する時も翻訳して伝えるのですが、これはすなわち「死ぬかもしれない感」であると僕は言っているんです。『ドラゴンズドグマ』というゲームは、「死ぬかもしれない」ことに対する恐れをゲームシステム、ビジュアルでちゃんと作っていくことを大事にしているんです。

例えば「夜が暗くて怖い」のはなぜ怖いのか。「突然敵が出てくるかもしれない」とか、「一歩前に進んだら崖から落ちてしまうかもしれない」から、“死ぬかもしれない怖さ”につながってくるわけですよね。そういった怖さを『ドラゴンズドグマ』ではしっかり表現しようとしてきたわけです。

あと、死んでもすぐにやり直せてしまうと「死ぬかもしれない感」が活きてこないとも思っていまして。なので「最後にセーブしたところまで戻されてやり直す」仕組みにしてデスペナルティを大きめにしようとか、セーブデータを1個にしようとか……。そのあたりのこだわりはすごく大事にしていまして、前作から受け継がれている部分です。

オンラインゲームの美味しい部分を、シングルで気楽に味わえる「ゆるいコミュニケーション」要素

平林氏:
あと、「ゆるいコミュニケーション」なるものを掲げていたのですが、当時はチーム全体でつかみ切っていくまでに中々時間がかかりました。

──当時としては発想が早すぎたんですね。

津野氏
前作の『ドラゴンズドグマ』を作りはじめたのって、Twitter(現:X)が出た2008年だったんです。実は『ドラゴンズドグマ』ってTwitterとほとんど同い年なんですよ。

平林氏:
初代『ドラゴンズドグマ』は、どこかで人と繋がっている感じがありつつ、オンライン特有の気遣いが必要とされない「ゆるさ」を兼ね備えたゲームにしたい……。その発想からシングルプレイのゲームとして制作し、ゆるいオンライン要素である「ポーン」【※】を中心にする形になっていったんですね。

シングルの気楽に遊べる感覚で、オンラインゲームの美味しい部分だけを味わえるのが『ドラゴンズドグマ』というゲームなんです。

※ポーン:プレイヤーに付き従い、戦闘や探索の補助をしてくれるNPC。常に行動を共にする「メインポーン」は自由なキャラクリエイトが可能。本シリーズでは他にふたりの「サポートポーン」を、ネットワークを介して他のプレイヤーから借り受けパーティーに参加させられる。

津野氏
オンラインゲームへの憧れだけで作ったゲームなんですよ(笑)。同時に「オンラインゲーム特有の面倒くさい部分をすべて取っ払う」のも前作『ドラゴンズドグマ』のコンセプトで、今作にも引き継がれているものです。くわえて初代の発売当時と違い、今はSNS全盛の時代ですから、また違った遊び方が生まれるのではないかと楽しみにしてますね。

平林氏:
ひとりで遊んでいるのに、みんなで一緒にワイワイ楽しんでいるような感覚があるんですよね。

また、プレイヤーのお供であるポーンをサーバーにあげると、どこかでそのポーンが誰かに借りられ、借り終わった後に帰ってきたポーンが何かしらお土産を持って帰ってきてくれます。それがすごく良いモノなこともあれば、なぜか「腐ったリンゴ」ばかり持って帰ってくるとか(笑)。色々なパターンがあるんですよ。

それが「ゆるいコミュニケーション」と言いますか……Twitterにおける140字の制限の中でのやり取りの醍醐味に近いものなのではないのかなと思うんです。もし、無制限に色んなことができるようにしてしまうと、今度はプレイヤー同士での気遣いが始まってしまうんですね。そういうことが発生しない「ゆるさ」は今回の『ドラゴンズドグマ 2』でも大事にしています。

『ドラゴンズドグマ 2』インタビュー:「ポーン」の開発エピソードを聞いてきた_003
(画像は『ドラゴンズドグマ 2』公式サイトより)

──こういった『ドラゴンズドグマ』のポーンを軸にした、ゆるいオンライン体験の発想はどこから生まれたのですか?

津野氏
僕は昔、カプコンの通信システム、ドリームキャストのマッチングサービス【※】の立ち上げとシステム作りをやっていたんです。僕らは開発者なんで、ロビーでみんながどんなことをチャットで喋っているのかが見えたんですよ。

大人たちが敬語を使って話す一方、中学生ぐらいのユーザーはタメ口で話していて、それで周りが「挨拶ぐらいしろや」とか返したりしていまして。それを見ていて「面倒くさいなぁ、もう……」って感じたんです(笑)。「そういう気遣いなしに楽しめるのが、ネットの良いところじゃないの?」と、僕は思っていたんですよ。

あと、僕は家が会社から遠かったので、「○○時から一緒にゲームやろうぜ」と言われても、その時間帯が僕には早すぎて、一緒に遊べなかったんです。そのときにも「なんでネットワークケーブルがあるのに時間に縛られなきゃいけないんや?」ってなりましたね。

※マッチングサービス:
KDDI提供の対戦型ゲーム向けネットワークサービス。2000年3月23日ドリームキャスト向けに発売された対戦格闘ゲームMARVEL VS. CAPCOM2』を皮切りに開始し、その後、発展形の「マルチマッチング」やブロードバンド回線対応の「マルチマッチングBB」が開始され、PlayStation 2向けのゲームにも対応した(対応タイトルはカプコンSNKプレイモアの2社のみ)。最初期のマッチングサービスは2003年9月1日正午をもってサービス終了。2011年6月30日には発展形を含む全サービスが終了した。

平林氏:
まあ、社会人はどうしても時間の制約が大きかったりしますからね……。

津野氏
それでずっとやっていると、うちのおかんが「風呂入りやー!」と言って、「いや、ちょっと今、手が離せないんやって!」となってしまって(笑)。そういうオンラインの煩わしさをすべてを取っ払って残ったのが「ポーンシステム」だったんです。

平林氏:
カプコンというか、我々としてはマルチゲームの楽しさにはもう一目も二目も置いていまして。わが社ではモンスターハンターが代表例ですが、マルチをメインに楽しんでいただけるコンテンツは他にもいっぱいあるんです。『ドラゴンズドグマ』はそれらのマルチゲームとは違った楽しみ方を提案したいと思い、それがまさに原点だったんですね。

『ドラゴンズドグマ 2』インタビュー:「ポーン」の開発エピソードを聞いてきた_004