人の「脳」は繊細で複雑な構造をしています。しかしながら、脳内科医の加藤俊徳氏によると、扱い方のコツは「とてもシンプル」とのこと。著書『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)より、 加藤氏が解説します。

ドーパミンが出ているとき記憶の定着率がアップする

脳という器官は人間が生きていく要であり、とても繊細で複雑な構造をしていますが、扱い方のコツはとてもシンプル。

とにかく脳を喜ばせてあげること。これを基準に考えるのが正解です。

仕事上必要で、合格率の低い資格試験に臨まなくてはいけない。二重三重のプレッシャーに押し潰されそうになるかもしれません。そうであるならば、そのプレッシャーに釣り合うようなご褒美を自分に用意してあげましょう。

「この試験が終わったらまとまった休みをとって海外旅行へ行こう」「過去問で合格ラインに到達したら、夜中までゲーム三昧だ!」など、自分がいちばん喜ぶことをご褒美として決めておくのです。

ワクワクした気持ちで勉強に取り組むと、脳内に報酬系の快楽伝達物質のドーパミンが放出され、この働きによって海馬や思考系脳番地などの働きがよくなり、記憶の定着率が向上します。複数の脳番地が一気に働くと、さらにドーパミンが出やすくなるという好循環が生まれます。

自分の気分は自分によってコントロールする。楽しいという気持ちを自分で引き寄せる。たったそれだけのことで、脳は機嫌よく働いてくれます。

ちなみにこのドーパミンは、自分が目指す姿を声に出して言うだけでも放出されます。だから、「自分はこうなるんだ!」という願望は、どんどん声に出して自分に聞かせてあげるといいでしょう。

聞かせる回数が多ければ多いほど、脳内では願望を達成したところを繰り返し想像し、そこに向けた行動がとられるようになっていきます。

仕事終わり直後は絶好の勉強タイム

仕事に必要な脳番地が機嫌よく働いてくれるのは、8〜10時間ほど。

仕事が終わってから、仕事内容に似たような勉強に取り組んでも、脳は思うように働いてくれません。

疲労している脳番地はこれ以上負荷がかからないよう省エネモードに突入し、深く考えることをやめてしまう「脳の自動化」を起こし、恐ろしく勉強効率を下げてしまうのです。

しかし、脳全体が疲れ切っているわけではありません。

疲れているのは、長時間使い続けた脳番地だけ。

たとえば、営業職や接客業など人と接する機会の多い職種の人は言語力を担う伝達系脳番地を酷使し、事務職などデスクワークが中心の人は主に視覚系脳番地や思考系脳番地を酷使している状態です。

帰宅して、いちばんのリラックスは長風呂か晩酌か、という人は多いでしょう。

しかし、脳の休養という点から見ると、それだけでは不十分。

日中、ほとんど使うことのなかった脳番地を刺激することで脳はリフレッシュし、疲れているという意識から自分を解放することができるのです。

疲れているからこそ「勉強」すべきワケ

ですから、「疲れているから今日は勉強なんて無理」ではなく、「疲れているからこそ勉強して脳の疲労をとる」と考えるのが合理的。

もちろん、仕事で酷使したのとは異なる脳番地を使うことが絶対条件です。

デスクに座っている時間が短い人であれば、帰宅途中のカフェや自宅でテキストを広げて視覚系脳番地を刺激してみたり、仕事中にあまり会話する機会がないのであれば、オンラインで英会話のレッスンを受けるのもいいでしょう。

音読で自分に読んで聞かせたり、勉強した内容を自分が先生の立場になったつもりでひとり授業を開催してみたりして伝達系脳番地を働かせましょう。

また、散歩をしたりジムに通ったり、指先を動かすような趣味に取り組んだりして運動系脳番地を刺激するのもおすすめです。

医療系や介護職、接客業など人に対する気遣いやケアを求められる職種の人は、感情系脳番地が疲弊している状態なので、植物のお世話や日曜大工、裁縫などで視覚系脳番地を刺激したり、環境にもよりますが自然の多い場所をのんびりお散歩するのもいい気分転換になるでしょう。

加藤 俊徳

加藤プラチナクリニック院長/株式会社脳の学校代表

脳内科医/医学博士

(※写真はイメージです/PIXTA)