
■元迷惑系「へずまりゅう」が奈良市議選で3位当選
参院選における「参政党の躍進」が話題の中、同日に行われた奈良市議会議員選挙の結果がネットユーザーに衝撃を与えている。かつて「迷惑系YouTuber」として活動していた、へずまりゅう氏が3位で当選したのだ。SNS上では「世も末だ」といった反応も出ている。
筆者はネットメディア編集者として、へずま氏による数々の「迷惑行為」を報じてきた。その立場からすると、個人的には当選はあり得た展開だと感じている。そこで今回は、「へずまりゅう氏が当選した理由」について考えたい。
■「鹿を守る」で奈良に移住
へずま氏は2025年7月20日に行われた奈良市議選で、8320票を獲得し、当選した。定数39に対して、55人が立候補する選挙で、参政党候補(1万985票)、維新候補(8780票)に続く、3位当選だった。ちなみに4位は約7000票、5位は5000票台ということを考えると、上位候補の“強さ”が際立つ。
今回の奈良市議選において、へずま氏は「外国人から鹿さんと市民を守る」をキャッチフレーズに掲げた。2024年夏ごろから、奈良公園を拠点にして「鹿パトロール」を実施。外国人観光客らが、奈良公園の鹿を虐待しているとして、その様子を動画でSNS投稿する活動を行っていた。2025年1月には奈良への移住を発表し、今回の出馬へと至った。
そして当選となったのだが、SNS上では賛否両論が出ている。どちらかと言えば、「世も末」「民度の低下」といった、“否”の方が強い印象を受ける。というのも、YouTuber時代を引き合いに出し、「人間の本質は変わらない」と感じるネットユーザーが多いからだ。
へずま氏が行った“迷惑行為”で、一番有名なのは2020年、スーパーマーケット店内で、会計前の刺身を食べたこと。前後して、衣料品店に返品を要求する動画も投稿され、窃盗や威力業務妨害の疑いで逮捕された。2022年3月に有罪が確定している。
■2021年、23年にも出馬したものの惨敗
YouTuber活動が制限されるなか、活路を見いだしたのが政治の世界だ。2021年10月に行われた参院選補欠選挙では、故郷の山口選挙区から出馬。NHK党(当時の名称は「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」)の公認で挑戦したが、自民・北村経夫氏らを前に惨敗した。
続いて、2023年4月の東京都・豊島区議会議員選挙(定数36)に無所属で立った。しかし、56人の候補者のうち54番目の得票(381.387票)で落選となった。その後、2024年7月の東京都知事選に出馬表明したが辞退。そして今回の奈良市議選に、無所属で立候補した。
このような経緯から、「迷惑系からの更生」をストーリーとして評価している人も少なくない。また、旧態依然とした政界において、“劇薬”となり得る存在だと期待している人もいる。そうした思いが、当選の原動力になったのだと考えられる。
■参政党と同様「外国人から市民を守る」を掲げた
とはいっても、ネットでの注目だけで、上位当選するのは難しい。事実、先ほど紹介したように、これまで2回の選挙では“泡沫”扱いされていた。リアルでの認知拡大を行わない限り、ここまでの圧勝にはならないだろう。
しかし今回は、従来とは違い、大きな“武器”を持っていた。それが「外国人から鹿さんと市民を守る」だ。参政党が掲げた「日本人ファースト」に代表されるように、日本国民の利益が最優先と訴える勢力が、このところ支持を広げている。
筆者個人は、この風潮を「少しずつ『日本人』の定義も絞り込まれ、あらゆる境遇の人々を排除しかねない思想だ」と批判的に見ている。一方で、先行きが不透明な現状では、強いリーダーシップのもとで、自分たちの利益を守ってほしいと考える気持ちそのものは理解できる。
そうしたムードに、へずま候補のキャッチフレーズは合致した。加えて、奈良のような観光都市は、オーバーツーリズムも悩みのタネだ。インバウンド(訪日外国人)の増加によって、全国各地で、本来市民が利用するはずの公共交通機関に影響が出たり、「民泊」宿泊者によるトラブルが起きたりしている。
■「外国人にモノ言う著名人」の立ち位置を確立した
また、市政ではなく県政だが、奈良県では昨年来、韓国・忠清南道(ちゅうせいなんどう)との交流事業の一環で行われるK-POPイベントが争点となっている。入場無料イベントにもかかわらず、多額の費用がかかることから、県政野党などから批判の声が上がった。
これは本来、「税金の適切な使用」の文脈で議論すべき内容だが、K-POPがメインであることから、「嫌韓」と絡める反応が少なくない。へずま氏も2024年12月に「アホすぎる。2億7千万円の血税をK-POPイベントに使うってマジかよ? 黙っていても外国人は奈良公園に集まるんだし無駄なことするなよ。単発で終わって公園が荒らされて終わるだけだしもっと良い使い道あるだろ」とXに投稿し、約1万3000リポスト、約7万2000いいねを獲得している。
これらの背景もあり、「外国人にモノ言う著名人」枠として、へずま氏を認識した人もいるだろう。加えて、地域に根ざした政策も掲げている。
選挙公報には、鹿保護とK-POPイベントに加え、「中国人に水源地は買わせない」「メガソーラーも断固反対!」といったものから、小学校給食費・保育費の無償化、奈良公園のゴミ箱・防犯カメラ設置、大和西大寺駅の“開かずの踏切”対策をアピール。「高市早苗さんを超えるSNS総フォロワー80万人」と、地元議員を絡めた自己紹介も行っている。
■「悪名×最年少×外国人政策」で当選
そして、忘れてはいけないポイントが、へずま氏が候補者55人のうち最年少であることだ。先行きの見えない時代だからこそ、若きニューリーダーを求めたい気持ちはよくわかる。そのうえ「地元出身でもない若い子が、移住してまで奈良市民の暮らしを守ろうとしてくれている」といったストーリーが演出されていれば、なおさらだ。引き合いに出すのは失礼ながら、「地域おこし協力隊」に対する地元住民の期待と通じるものがある。
つまり、へずま氏は「圧倒的な悪名」だけでなく、外国人政策が重視される昨今の投票行動、そして若さや移住といった属性をフル活用して、選挙戦に挑んだことになる。加えて、ベースとなる「悪名」もまた、近頃のSNS選挙ではプラスに働く。
“アンチ”からのバッシングが強まるほどに、「正しいことを言っているから攻撃されるのだ」といった印象を与える。ひとたび、この構図を作れれば、ファンが勝手に選挙活動をしてくれているようなものだ。
かくして、へずま氏は当選した。しかし政治のゴールは、当選ではない。ここから先は、ネットに親しみのない有権者からも監視される。“かみつく側”から、“かみつかれる側”になったとき、本当に変わったと思わせられるか。4年間の任期で成果を残していくしかないだろう。
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ネットメディア研究家
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
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