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 かつてポリグラフと呼ばれる呼吸・脈拍・血圧など複数の生理現象を測定する機器が「嘘発見器」として真面目に用いられていた時代があった。

 かつてアメリカでは、「アメリカの機械の良心」として扱われており、白黒はっきりさせねばならないような事態になると、ポリグラフが嘘と真実を見分ける手がかりになると信じて、人は嘘発見器に頼ってきた。

 自分に有利な証拠がそろっている側の者ですら、大衆を納得させるために自ら嘘発見器にかからなければならないかのように感じた。

 反対に、自分に不利な証拠がそろっている側の者は、嘘発見器の結果を切り札であるかのように誇示してきたのである。

 だが、それは全く正確ではなく、現在は、多くの国で裁判で証拠としては認められていない。

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嘘発見器の歴史


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1960年代の嘘発見器 image credit:Deror_avi

 しかし嘘発見器(ポリグラフ)が登場して以来、それが役に立たないガラクタであるという証拠はあった。

 「人であれ、機械であれ、嘘を発見できるものはない」と、1965年に実施されたこの分野に関する学術文献の網羅的なレビューでは結論づけられている。

 そして現在、ごく稀な状況を除けば、アメリカの法廷で嘘発見器の結果は証拠として認められていない。

 嘘発見器が役に立たないという事実は折にふれて一般に突きつけられてきた。

 たとえば1987年、確定しているだけでも49人を殺害した連続殺人鬼ゲイリー・リッジウェイが嘘発見器の検査をパスし、判決が20年近く遅れることになった。

嘘発見器の仕組み

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 基本的な仕組みは100年近くも前に考案され、今にいたるまでほとんど変わっていない。

 嘘発見器は、心拍数、呼吸量、皮膚電気の反応をモニターする。手首のバンドで血圧と心拍数を計測。胸の周りに巻かれるゴムチューブで肺の呼吸を、指を乗せるプレートの部分で皮膚から出る汗を調べる。

 ハダースフィールド大学の法心理学者ジョン・シノットによれば、それらは正確に計測されているという。

 しかしその身体的なデータを心理的な分析に使うのは飛躍である――ゆえに失敗する。嘘発見器はきちんと設計された通りにデータを計測しているのだ。

 だからと言って、それによって嘘の検出にはつながらない。

 シノットらによる2015年の研究は、嘘発見器で嘘を発見しようした場合、その精度はたまたま当たったという程度とほとんど変わらないという、不都合な真実を突きつけている。

嘘発見器は歴史的なノンフィクションの中のフィクション

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 ワンダーウーマンの作者としても知られる心理学ウィリアムモールトン・マーストンは血圧を計測する方法を考案し、それを1920年代初頭に発表。

 これらの数値から被験者の感情を推測することが可能だったと主張した。

 これを受けて、警察官のジョン・ラーソンと生理学者らは、捜査の一助として、血圧をはじめとする数値を計測する機器を開発することにした。

 歴史家のケン・アルダーによれば、その狙いは、人格を非侵襲的な方法で判断できる装置によって、警察による暴力的な捜査をなくすことだった。

 警察などの法執行機関はこれを大いに歓迎するが、1923年最高裁で争われたある事件で、嘘発見器の証拠能力に待ったがかけられた。

 その判決では、嘘発見器の証拠能力は、学会で一般的な裏付けが得られない限り認められないと判示されている。

今もなおフィクションの世界を生きる

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 今日、警察などの機関は、ゲイリー・リッジウェイの時代よりは精度が向上しているだろうことを期待して、相変わらず嘘発見器を捜査に利用している。

 だがアルダーによれば、嘘発見器の有効性は一種の心理学的なプラセボ効果のようなものと言えるという。

 嘘発見器の扱いに長けた人間は、相手の心を見抜く捜査官としても優秀なのだ。嘘発見器自体が優れているわけではなく、むしろそれは誤解を生じさせる。

 アルダーは、嘘発見器の登場以来、それは「一般大衆への見世物」
 つまりフィクションの世界で使われてきたと話す。

 法廷ドラマや刑事ドラマの中には、人が嘘発見器を突破できるのは捜査官の質問が下手なときだけというあやを含めたものもあるが、嘘発見器の数値が心の動きと直結しているという前提で視聴者を獲得している動画もある。


Jennifer Lawrence Takes a Lie Detector Test | Vanity Fair
References:Polygraph tests don't work as lie detectors and they never have/ written by hiroching / edited by parumo

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